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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)17342号 判決 1988年5月10日

原告

中島ツモ子

被告

大澤健二

主文

一  被告は原告に対し、五四七万一四一二円及び内五〇七万一四一二円に対する昭和六三年三月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、九三八万〇三八二円及び内八五八万〇三八二円に対する昭和六三年三月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  1につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年三月一〇日午後一時四〇分ころ

(二) 場所 東京都八丈島八丈町大賀郷一九三七番地先路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(品川五九も七四〇六)

運転者 被告

(四) 被害車 第一種原動機付自転車(八丈町い七二四)

運転者 原告

(五) 事故態様 走行中の被害車に後方から進行してきた加害車が接触して、被害車を原告もろとも跳ね飛ばした(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

(一) 被告は、加害車を保有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条の規定に基づき、原告が本件事故により被つた損害につき賠償責任を負うものである。

(二) 被告は、本件事故現場手前で進路前方の道路左端から約一・五メートルのところを時速約三〇キロメートルで走行中の被害車を認め、これを追い越して前方道路左端に停車しようとしていたのであるから、加害車を運転して進行するに当たつては、被害車との左側の間隔を十分とつて追い越し、追い越した後も十分な車間距離をとつてから左方に進路を変更すべき注意義務があるのにこれを怠り、時速約四五キロメートルに加速して被害車を追い越した後、すぐに時速約二〇キロメートルまで減速して左方に進路を変更した過失により本件事故を惹起させたのであるから、民法七〇九条の規定に基づき、原告が本件事故により被つた損害につき賠償責任を負うものである。

3  受傷状況

原告は、家事労働従事の主婦であるところ、本件事故により第一腰椎圧迫骨折、腰椎・頸椎捻挫等の傷害を受け(以下「本件傷害」という。)、昭和六〇年三月一〇日から同年四月二四日まで八丈町立八丈病院に入院し(入院日数四六日)、同月二五日から昭和六一年一二月二七日まで同病院及び東京医科大学附属病院に通院して(実通院日数九三日)治療を受けたが、同年一〇月二八日を症状固定日(症状固定時四五歳)として第一腰椎の楔形変形・約一五度の亀背変形、常在性の腰背部痛、起床時の両手こわばり感、右足内側のしびれ様疼痛等の後遺障害(自賠法施行令二条別表所定の後遺障害等級第一一級に該当するもの、以下「本件後遺障害」という。)が残つた。

4  損害 合計九三八万〇三八二円

(一) 休業損害 二一二万七五〇〇円

原告は、本件事故のため、本件事故発生日の昭和六〇年三月一〇日から本件傷害の症状固定日である昭和六一年一〇月二八日までの内五七五日間休業を余儀なくされ、相当の損害を被つた。原告は家事労働従事の主婦であるから、一日当たりの休業損害を三七〇〇円として計算すると、休業損害の合計は二一二万七五〇〇円となる。

(二) 逸失利益 六七三万二七五二円

原告は本件後遺障害のために将来にわたり逸失利益相当の損害を被つたものであるところ、その労働能力喪失率は二〇パーセントとみるべきであり、右算定の基礎収入として昭和六一年度賃金センサスによる平均年収二三〇万八九〇〇円を採用し、就労可能年数は二二年間と考えるべきであるから、新ホフマン方式(係数一四・五八〇)により年五分の中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると、六七三万二七五二円となる。

(三) 慰藉料 二七七万円

原告が本件事故により入通院したことに対する慰藉料としては一五〇万円、後遺障害に対する慰藉料としては一二七万円の合計二七七万円が相当である。

(四) 損害の填補 三〇四万九八七〇円

原告は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から三〇四万九八七〇円の給付を受けた。

(五) 弁護士費用 八〇万円

原告は、弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟の提起と遂行を委任し、相当額の報酬等弁護士費用の支払を約束したが、このうち本件事故と相当因果関係のある損害として被告が賠償すべき額は八〇万円である。

5  よつて、原告は、被告に対し、前記の損害合計九三八万〇三八二円及び弁護士費用を除く八五八万〇三八二円に対する本件事故の日の後である昭和六三年三月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)のうち、(五)の事実を否認し、その余の事実は認める。

2  同2(責任原因)の(一)及び(二)の事実は否認ないし争う。

3  同3(受傷状況)の事実は不知。

4  同4(損害)の事実は不知ないし争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1(事故の発生)の事実は、事故の態様を除き当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、走行中の被害車に後方から進行してきた加害車が接触して、被害車を原告もろとも跳ね飛ばしたことが認められる。

二  被告の責任

自賠法三条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者(以下「運行供用者」という。)とは、自動車の使用についての支配を有し、かつ、その使用により亨受する利益が自己に帰属する者を意味すると解すべきところ、前掲甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、昭和五九年一一月二一日に自動車運転免許を取得し、昭和六〇年一月二八日に加害車を被告の父親である訴外大澤文夫名義で取得したこと、加害車の使用及び管理は専ら被告が行なつていたこと、本件事故は被告が友人を同乗させて友人宅に送つて行く途中で発生したことが認められ、右事実によれば、被告は加害車の運行供用者として自賠法三条の規定に基づき、原告が本件事故により被つた損害につき賠償責任を負うものというべきである。

三  受傷状況

前掲甲第四号証、成立に争いのない同第二号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、家事労働従事の主婦であつたこと、本件事故により第一腰椎圧迫骨折、腰椎・頸椎捻挫等の傷害を受け、昭和六〇年三月一〇日から同年四月二四日まで八丈町立八丈病院に入院し(入院日数四六日)、同月二五日から昭和六一年一二月二七日まで同病院及び東京医科大学附属病院に通院して(実通院日数九三日)治療を受けたこと、同年一〇月二八日を症状固定日として第一腰椎の楔形変形・約一五度の亀背変形、常在性の腰背部痛、起床時の両手こわばり感、右足内側のしびれ様疼痛等の後遺障害が残つたこと、右症状固定時に原告は四四歳八ケ月であつたこと、右後遺障害は自賠責保険において自賠法施行令二条別表所定の後遺障害等級第一一級に該当するものと認定されたことが認められる。

四  損害について判断する。

1  休業損害 一一九万〇六九六円

原告が家事従事者であること、本件後遺障害の内容、程度に徴すると、原告主張のごとく本件事故の発生日から本件傷害の症状固定日までの五九八日間の内五七五日間について全日休業を余儀なくされたものとは認め難いから、右五九八日間の内入院期間中の四六日間及び実通院日数九三日については全日休業を、その余の期間については三割程度で休業を余儀なくされたものと認めることとし、原告の職業、住居地等を踏まえ、本件事故当時の昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均女子労働者の平均賃金年額二三〇万八九〇〇円の七割を基礎収入として、右の間の休業損害を算定すると、次の計算式のとおり、一二二万五二三五円となる(一円未満切捨。)。

(二三〇万八九〇〇円×〇・七÷三六五日)×{(四六日+九三日)+(四五九日×〇・三)}=一二二万五二三五円

2  逸失利益 四三九万六〇四七円

原告は、本件事故による後遺障害のため、原告主張の四五歳から六七歳まで二二年間にわたり二〇パーセントに相当する労働能力を喪失したものと認めるのが相当であるから、症状固定時の昭和六一年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均女子労働者の平均賃金年額二三八万五五〇〇円の七割を前記1と同様の理由で基礎収入とし、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、右の間の逸失利益の現価を計算すると、次の計算式のとおり、四三九万六〇四七円となる(一円未満切捨。)。

二三八万五五〇〇円×〇・七×〇・二〇×一三・一六三〇=四三九万六〇四七円

3  慰藉料 二五〇万円

本件傷害の内容と程度、治療の経過、本件後遺障害の内容と程度、原告の年齢その他本件審理に顕われた一切の事情を勘案し、本件事故により原告が被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、二五〇万円と認めるのが相当である。

4  損害の填補 三〇四万九八七〇円

原告が自賠責保険から三〇四万九八七〇円の給付を受けた事実は原告の自認するところであるから、右給付額の限度で原告の損害は填補されたものというべきである。

5  弁護士費用 四〇万円

本件訴訟の難易度、認容額、審理の経過、その他本件において認められる諸般の事情にかんがみると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は四〇万円と認めるのが相当である。

五  以上によれば、本訴請求は、原告が被告に対し五四七万一四一二円及び弁護士費用を除く五〇七万一四一二円に対する本件事故の日の後である昭和六三年三月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田保幸 原田卓 竹野下喜彦)

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